研究内容
金属材料の疲労き裂治癒技術の開発
機械・機器部材の破壊事例の原因の多くが疲労破壊であり、金属材料の疲労き裂治癒技術の確立は機械・構造物の安全性向上および長寿命化を図るために必要不可欠です。当研究室では高密度電流場や熱処理温度を制御することにより、金属の原子拡散現象を利用したき裂治癒技術を提案しています。高密度電流を印加することで、疲労き裂が閉じたり、転位が移動または消滅したりすることを明らかにしています。また、適切な熱処理を施すことで、70%以上の強度を回復させることに成功しました。本技術の実現によって、構造物の長期信頼性を格段に向上させることが可能で、メンテナンスコストの削減や環境負荷低減といった効果をもたらすことができます。
関連論文:
- Atsushi Hosoi, Kishi Tomoya and Yang Ju, Healing of fatigue crack by high-density electropulsing in austenitic stainless steel treated with the surface-activated pre-coating, Materials, 2013, 6(9), 4213-4225. (doi:10.3390/ma6094213)
- Yongpeng Tang, Atsushi Hosoi, Yasuyuki Morita and Yang Ju, Restoration of fatigue damage in stainless steel by high-density electric current, International Journal of Fatigue, 2013, 56, 69-74. (doi:10.1016/j.ijfatigue.2013.08.012)
炭素繊維強化複合材料の長期信頼性評価
炭素繊維強化複合材料(CFRP)は軽くて強い材料であり、最新の航空機の一次構造材料として使用されています。また、自動車や鉄道車両、エンジンファンブレード、潮流発電ブレードといった大型構造材料への適用拡大が期待されており、CFRP製構造物の長期耐久性を正しく評価することは非常に重要です。そこで当研究室では、マルチスケールでCFRPの疲労損傷挙動を評価し、疲労損傷発生を定量的に予測するためのモデルを提案しています。原子間力顕微鏡を用いてナノメートルスケールで疲労損傷挙動を評価することを実現し、一方向90°材の疲労特性から任意構成のクロスプライ積層板や、疑似等方積層板の疲労損傷発生寿命を予測するモデルを構築しています。
関連論文:
- Atsushi Hosoi, Shigeyoshi Sakuma, Yuzo Fujita and Hiroyuki Kawada, Prediction of initiation of transverse cracks in cross-ply CFRP laminates under fatigue loading by fatigue properties of unidirectional CFRP in 90° direction, Composites Part A: Applied Science and Manufacturing, 2015, 68, 398-405. (doi:10.1016/j.compositesa.2014.10.022)
- Tsuyoshi Miyakoshi, Takeru Atsumi, Kensuke Kosugi, Atsushi Hosoi, Terumasa Tsuda, Hiroyuki Kawada, Evaluation of very high cycle fatigue properties for transverse crack initiation in cross-ply CFRP laminates, Fatigue & Fracture of Engineering Materials & Structures, 2022, accepted.(本研究の一部は競輪の補助を受けて実施しました。)
バイオミメティック機能性材料の開発と強度発現機構の解明
生体材料の構造の多くは、硬い材料と柔らかい材料の複合材料であり、それらが複雑なナノ階層構造で構成されています。これらの材料を上手く構築することで軽くて高強度、高靭性を実現させています。例えば、アワビの貝殻は98%の炭酸カルシウムと2%のタンパク質がナノメートルスケールの多層積層構造をしており、炭酸カルシウム結晶のみと比べて約3000倍の強度を実現しています。当研究室では、アルミニウムに陽極酸化処理を施し、材料表面に規則的に配列したナノポーラス構造を自己組織化させた陽極酸化ポーラスアルミナを用いて、生体模倣による機能性材料の開発や接合強度を向上させた新しい複合材料の開発を行っています。